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予防医療

Photo: Mikhail Nilov / Pexels

予防医療2026-05-24・約8分で読めます

犬猫の抗菌薬適正使用(AMR対策)— 獣医療のための実践原則

薬剤耐性(AMR)とOne Healthの観点から、獣医療における抗菌薬適正使用(AMS)の実践原則をまとめました。培養・感受性試験の活用、経験的治療の考え方、重要度ランク(第一選択と温存すべき抗菌薬)、用量・期間の最適化、外科予防投与の原則を、一次情報源を示しながら整理します。

犬猫の抗菌薬適正使用(AMR対策)— 獣医療のための実践原則のイメージ
Photo: Mikhail Nilov / Pexels

薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)は、ヒト・動物・環境にまたがるOne Healthの課題です。獣医療における抗菌薬の使い方は、患者である動物だけでなく公衆衛生にも影響します。本稿では抗菌薬適正使用(AMS: Antimicrobial Stewardship)の実践原則を、日常診療で使える形で整理します。

本記事の位置づけ(必読)
本記事は獣医師・動物看護師向けの一般的な学習用整理です。具体的な薬剤選択・用量・期間は症例・部位・地域の耐性状況・各国規制で異なります。実臨床では各国・各学会のAMSガイドライン、規制(重要抗菌薬の使用制限等)、製剤の添付文書を必ず確認してください。

なぜ適正使用が必要か(One Health)

抗菌薬の不適切な使用(不要な投与、不十分な用量、過剰に長い投与、重要度の高い薬の安易な使用)は耐性菌を選択・拡散させます。耐性菌や耐性遺伝子は動物・ヒト・環境の間を移動し得るため、獣医療での適正使用は動物医療の質であると同時に公衆衛生上の責務でもあります。

適正使用の基本原則

  1. 本当に細菌感染か:抗菌薬が不要な病態(ウイルス性、非感染性炎症、自己限定性)に使わない
  2. 可能な限り培養・感受性試験:とくに難治・再発・院内・重症例では検体採取を治療開始前に検討
  3. 狭域・第一選択から:起因菌が想定できれば不要に広域・重要抗菌薬へ広げない
  4. 適切な用量・間隔・期間:効果を保ちつつ『必要十分な最短』を意識する
  5. 再評価:反応不良時は『増量・変更』の前に診断と要因(異物・膿瘍・基礎疾患)を再検討
経験的治療(エンピリック)の考え方
培養結果を待てない状況では、部位・想定起因菌・地域の耐性傾向から第一選択薬を経験的に開始します。重要なのは『開始前に検体を確保し、結果が出たら狭域へデ・エスカレーションする』こと。やみくもな広域開始の常態化を避けます。

抗菌薬の重要度ランクと『温存』

WHOやWOAH(旧OIE)は抗菌薬をヒト医療上の重要度でランク付けし、とくに『最重要抗菌薬(HPCIA)』に該当するクラスは慎重使用・温存が求められます。獣医療でも、第3世代以降のセファロスポリンやフルオロキノロンなどは安易な第一選択にせず、感受性試験で正当化される場合に限る、という運用が広がっています。

位置づけ考え方例(一般論)
第一選択になりやすい想定起因菌に有効で狭域・温存度が高いアモキシシリン系 等(部位と感受性による)
条件付き(温存)感受性試験で正当化される場合に限るフルオロキノロン、第3世代セファロスポリン 等
原則避ける/規制対象ヒト医療で最後の砦・規制された薬剤カルバペネム、コリスチン 等(多くの国で動物への使用を強く制限)
『最後の砦』は動物に使わない
カルバペネムやコリスチンなど、ヒトで多剤耐性菌の最終手段となる薬剤は、原則として伴侶動物の日常診療では使用しません。地域・国の規制と倫理の両面から、選択肢に入れる前に専門家への相談を含めて慎重に判断します。

用量・投与期間の最適化

  • 用量は『少なすぎ』が耐性を生む:効果が見込める適正用量を守る(過少投与を避ける)
  • 期間は『必要十分』へ:漫然とした長期投与を見直し、近年は短縮化が支持される病態もある
  • PK/PD(時間依存性/濃度依存性)に応じた投与間隔を意識する
  • 局所(外用・点耳・点眼)で対応できる感染は全身投与に頼らない

外科における予防的抗菌薬

清潔手術の多くは予防的抗菌薬を必要としません。適応がある場合も『執刀前の適切なタイミングに投与し、術後にだらだら続けない』のが原則です。手術部位感染の予防で最も効果が大きいのは、抗菌薬よりも無菌操作・手指衛生・適切な術野管理であることを押さえます。

感染対策と抗菌薬はセット
AMSは抗菌薬の選び方だけでなく、手指衛生・器材の滅菌・隔離・環境清掃といった院内感染対策と一体です。耐性菌を『出さない・広げない』取り組みが、結果的に抗菌薬使用量そのものを減らします。

飼い主・チームへのコミュニケーション

  • 『念のため抗菌薬』の要望には、不要な場合の理由とリスクを丁寧に説明する
  • 処方時は『最後まで指示どおり飲み切る/自己判断で中断・残薬を使い回さない』を伝える
  • 院内で第一選択・温存薬の運用方針を共有し、判断のばらつきを減らす
学習のポイント
AMSの核は『使うか否か→何を→どれだけ→いつまで→再評価』という意思決定の型です。重要度ランクと温存の概念、培養に基づくデ・エスカレーションを身につけると、目の前の一頭にも公衆衛生にも良い診療になります。

参考・一次情報源

  • WOAH(旧OIE)List of Antimicrobial Agents of Veterinary Importance
  • WHO 最重要抗菌薬リスト(Critically Important Antimicrobials)
  • 各国・各学会の獣医療AMSガイドライン(ISCAID の感染症診療ガイドライン等)
  • 農林水産省・関係省庁のAMR対策(薬剤耐性アクションプラン)に関する資料

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