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臨床総説

Photo: Mikhail Nilov / Pexels

臨床総説2026-05-19・約9分で読めます

犬の糖尿病 — 診断・インスリン療法・DKAの管理 臨床総説

犬の糖尿病について、診断(持続性高血糖・尿糖、フルクトサミン)とインスリン療法の開始・調整、血糖曲線の読み方、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の初期対応、食事・併発疾患管理の考え方を、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

犬の糖尿病 — 診断・インスリン療法・DKAの管理 臨床総説のイメージ
Photo: Tima Miroshnichenko / Pexels

糖尿病は犬で日常的に遭遇する内分泌疾患で、多くはインスリン分泌の絶対的不足(インスリン依存性)を呈します。猫と異なり寛解(remission)は期待しにくく、原則として生涯にわたるインスリン療法が必要です。本稿では診断、インスリン療法の組み立て、血糖モニタリング、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の初期対応までを整理します。

本記事の位置づけ(必読)
本記事は獣医師・動物看護師向けの一般的な学習用総説です。インスリン製剤の種類・初期用量・調整幅・モニタリング間隔は製剤と最新コンセンサスで異なります。実臨床では各製剤の添付文書とACVIM/学会のガイドラインを必ず確認してください。

病態の概略

犬の糖尿病はインスリン分泌低下による高血糖が中心です。背景には免疫介在性の膵島破壊、慢性膵炎、クッシング症候群や黄体期・妊娠に伴うインスリン抵抗性、ステロイド投与などが関与します。高血糖が腎の再吸収閾値(犬でおよそ180〜220mg/dL前後)を超えると尿糖が出現し、浸透圧利尿により多飲多尿をきたします。

典型的な臨床徴候

  • 多飲多尿(PU/PD)
  • 多食にもかかわらず体重減少
  • 白内障の急速な進行(犬で特徴的)
  • 進行例での元気・食欲低下、嘔吐(DKAを示唆)

診断

診断は『持続性の空腹時高血糖』と『尿糖』の併存が基本です。ストレス性高血糖は犬では猫ほど問題になりませんが、単回の血糖値だけで判断せず臨床徴候と合わせます。フルクトサミンは過去2〜3週間の平均血糖を反映し、ストレスの影響を受けにくいため、診断の補強と治療効果の評価に有用です。

  • 血液検査:血糖、フルクトサミン、肝酵素、脂質、電解質、必要に応じ膵特異的リパーゼ
  • 尿検査:尿糖、ケトン体、比重、尿路感染の評価(沈渣・培養)
  • 併発・基礎疾患の検索:膵炎、クッシング症候群、尿路感染、未避妊雌の黄体期
未避妊雌は避妊を検討
未避妊雌では黄体期のプロゲステロン上昇が強いインスリン抵抗性を生みます。血糖コントロールを安定させるため、状態が許せば避妊手術が推奨されることが多い点を押さえておきます。

インスリン療法の開始

合併症のない犬では中間〜長時間作用型インスリンを1日2回皮下投与で開始するのが一般的です。開始用量は体重あたりの低めの量から始め、急激な低血糖を避けながら段階的に調整します。初期は数日〜2週間ごとに評価し、用量変更は一度に大きく動かさないのが原則です。低血糖の徴候(ふらつき・虚脱・痙攣)と緊急時対応(経口ブドウ糖)を飼い主に必ず指導します。

用量は本記事の数値を使わない
インスリンは製剤ごとに濃度・力価・作用時間が異なり、初期用量や調整幅も製剤・体格で変わります。具体的な数値は使用製剤の添付文書と最新ガイドラインを参照し、症例ごとに設定してください。

血糖モニタリングと血糖曲線

用量調整は『臨床徴候の改善(飲水量・尿量・体重・活動性)』を主軸に、血糖曲線やフルクトサミン、持続血糖モニタリング(CGM)を組み合わせて行います。血糖曲線では最低血糖値(ネイディア)と作用持続時間、効果の十分さを評価します。

  1. ネイディア(最低血糖)が低すぎないか=低血糖リスクの確認
  2. 作用持続時間が十分か(次回投与前まで効果が保たれるか)
  3. 効果が不足していないか(全体的に高値で推移していないか)
  4. ソモジー効果(過量による反跳性高血糖)と単純な作用不足の鑑別
在宅モニタリングの価値
病院でのストレス性高血糖を避けるため、在宅での血糖測定や持続血糖モニタリング(CGM)の活用が広がっています。飼い主の協力度に応じて方法を選び、過度な頻回採血よりも臨床徴候とトレンドを重視します。

食事・体重・生活管理

  • 毎日できるだけ一定の時間・一定の組成で給与し、インスリン投与と連動させる
  • 肥満があれば段階的な減量、削痩があれば栄養確保を優先
  • 食物繊維や消化性に配慮した糖尿病用療法食の活用を検討
  • 運動量を日によって大きく変えない(低血糖予防)

コントロール不良時のチェックポイント

用量を上げても安定しない場合、用量そのものより『インスリン抵抗性の原因』を探すことが重要です。

  • 手技の問題:注射手技、保存・期限切れ、製剤の取り扱い(振盪や温度)
  • 併発疾患:尿路・歯周などの感染、膵炎、クッシング症候群、甲状腺機能低下症
  • 薬剤:ステロイドなど血糖を上げる薬剤の併用
  • 未避妊雌の黄体期

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の初期対応

DKAはインスリン作用の絶対的不足に拮抗ホルモンの過剰が重なり、ケトン体産生と代謝性アシドーシスが進行した緊急病態です。元気消失・嘔吐・脱水・頻呼吸を呈し、しばしば感染や膵炎などの誘因を伴います。治療は『輸液による循環・脱水・電解質の是正』を優先し、状態を整えたうえで速効型インスリンを用いて緩やかに血糖とケトンを補正します。

  1. 循環・脱水の評価と輸液による補正(まず体液量とカリウムを整える)
  2. 電解質(特にカリウム、リン)と血糖、血液ガスの継続モニタリング
  3. 状態安定後に速効型インスリンで段階的に補正(急激な血糖・浸透圧低下を避ける)
  4. 誘因(感染、膵炎など)の検索と並行管理
DKAの補正は『ゆっくり』
急激な血糖・浸透圧の低下、低カリウム血症は重篤な合併症(脳浮腫等)につながり得ます。輸液と電解質を先行させ、インスリンによる補正は緩徐に行うのが原則です。重症例は集中管理が可能な施設での対応が望まれます。

飼い主への説明と長期管理

糖尿病管理の成否は在宅ケアに大きく依存します。注射手技、保存方法、低血糖時の対応、給餌の一定化、白内障など合併症の説明を丁寧に行い、定期再診でコントロールを評価します。『完治ではなく、コントロールしながら良いQOLを保つ慢性疾患』という枠組みを共有することが、長期管理を続ける土台になります。

学習のポイント
犬の糖尿病管理は『数値を追う』より『臨床徴候の安定とインスリン抵抗性因子の管理』が軸です。なぜ抵抗性が生じるか(感染・併発内分泌疾患・黄体期・ステロイド)を体系的に潰せると、コントロール不良例への対応力が上がります。

参考・一次情報源

  • ACVIM コンセンサスステートメント(犬猫の糖尿病管理に関するもの)
  • AAHA Diabetes Management Guidelines for Dogs and Cats
  • 各インスリン製剤の添付文書(種類・濃度・作用時間・用量)
  • 日本獣医内科学アカデミー等の教育資料・セミナー

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