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臨床総説

Photo: Mikhail Nilov / Pexels

臨床総説2026-05-15・約9分で読めます

犬の慢性腎臓病(CKD)のIRISステージ分類と管理 — 臨床総説

犬の慢性腎臓病(CKD)について、IRISステージ分類(血清クレアチニン・SDMA、蛋白尿・血圧によるサブステージ)と、ステージごとの食事療法・降圧・蛋白尿管理・合併症対策の考え方を、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

犬の慢性腎臓病(CKD)のIRISステージ分類と管理 — 臨床総説のイメージ
Photo: Mikhail Nilov / Pexels

慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)は、犬で日常的に遭遇する進行性・不可逆性の疾患です。早期は無症状で進行し、診断時にはすでにネフロン機能の大部分が失われていることも少なくありません。本稿では国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)のステージ分類を軸に、診断と病期別管理の考え方を整理します。個々の症例判断は必ず最新の一次情報源に基づいてください。

本記事の位置づけ(必読)
本記事は獣医師・動物看護師向けの一般的な学習用総説です。診断基準値・薬剤・用量は改訂され得るため、実臨床ではIRIS公式(iris-kidney.com)および各製剤の添付文書・最新のコンセンサスを必ず確認してください。

CKDの定義と病態の概略

CKDは「腎の構造的・機能的異常が3か月以上持続する状態」と概念的に定義されます。原因は多様(加齢性間質性腎炎、糸球体腎炎、腎異形成、腎盂腎炎、尿路閉塞後、毒性・虚血性障害など)で、共通の最終像としてネフロン喪失と残存ネフロンの過剰濾過、線維化が進行します。一度失われたネフロンは再生しないため、治療目標は「治癒」ではなく進行抑制・合併症管理・QOL維持です。

IRISステージ分類の基本構造

IRIS分類は、安定した状態で複数回測定した空腹時の血清クレアチニン(および補助指標としてのSDMA)でステージ1〜4に分け、さらに『蛋白尿』と『血圧』の2軸でサブステージを付与する構造です。脱水や急性増悪のない安定期に評価するのが原則です。

ステージ血清クレアチニン(犬, mg/dL)目安SDMA(µg/dL)目安臨床的特徴
Stage 1< 1.4< 18高窒素血症なし。他の腎異常所見で疑う
Stage 21.4 – 2.818 – 35軽度高窒素血症。臨床徴候は乏しい〜軽度
Stage 32.9 – 5.036 – 54中等度。全身性の臨床徴候が出現
Stage 4> 5.0> 54重度。尿毒症リスクが高い
IRISステージの全体像(重症度のエスカレーション)
Stage 1高窒素血症なし他の腎異常所見で疑う
Stage 2軽度高窒素血症臨床徴候は乏しい〜軽度
Stage 3中等度全身性の臨床徴候が出現
Stage 4重度尿毒症リスクが高い
SDMAの位置づけ
対称性ジメチルアルギニン(SDMA)はクレアチニンより早期にGFR低下を反映しやすく、筋肉量の影響を受けにくい指標です。クレアチニンが基準内でもSDMA上昇が持続する場合は早期CKDを疑う根拠になります。ただし単独で確定するものではなく、複数指標と経過で総合判断します。

サブステージ①:蛋白尿(UPC)

尿蛋白/クレアチニン比(UPC)で蛋白尿の程度を評価します。蛋白尿はCKDの進行・予後悪化と関連する独立した因子であり、ステージにかかわらず評価・介入の対象です。腎前性・腎後性・炎症性の要因を除外したうえで判定します。

区分UPC(犬)目安
非蛋白尿(NP)< 0.2
境界域(BP)0.2 – 0.5
蛋白尿(P)> 0.5

サブステージ②:血圧(収縮期血圧)

全身性高血圧は腎・眼・心・中枢神経の標的臓器障害(TOD)を引き起こすため、CKD症例では血圧評価が重要です。IRISは収縮期血圧(SBP)に基づきTODリスクを層別化します。白衣性高血圧を避けるため、静かな環境で複数回測定します。

リスク区分収縮期血圧(mmHg)目安
正常血圧< 140
前高血圧140 – 159
高血圧160 – 179
重度高血圧≥ 180

診断アプローチ

  1. 病歴・身体検査(多飲多尿、体重減少、食欲不振、口腔潰瘍、貧血様粘膜など)
  2. 血液検査(クレアチニン、SDMA、BUN、リン、カルシウム、カリウム、血液ガス/重炭酸、CBC)
  3. 尿検査(比重、UPC、沈渣、必要に応じ尿培養)
  4. 血圧測定(収縮期血圧、標的臓器障害の評価)
  5. 画像検査(腎サイズ・構造、結石、腎盂拡張の評価に超音波)
  6. 原因検索(感染、閉塞、糸球体疾患、基礎疾患の有無)

ステージ別管理の考え方

病期に応じた介入の積み上げ
全ステージ共通:可逆的要因の是正・飲水確保・腎毒性物質の回避
Stage 2以降:腎臓病用療法食でリン・蛋白質を管理
蛋白尿があれば:RAAS阻害(ACE阻害薬/ARB)でUPCを低減
Stage 3〜4:尿毒症・貧血・電解質・脱水など合併症対策

全ステージ共通

  • 可逆的・治療可能な要因(脱水、腎盂腎炎、尿路閉塞、腎毒性薬剤)の同定と是正
  • 常に飲水アクセスを確保し、脱水を避ける(必要に応じ皮下・静脈輸液)
  • 腎毒性のある薬剤・造影剤の慎重な使用
  • 定期的な再評価でステージと進行速度をモニタリング

Stage 2以降:食事療法とリン管理

腎臓病用療法食(リン制限・蛋白質の質と量の最適化・オメガ3脂肪酸付加・代謝性アシドーシス緩和など)は、生存期間延長のエビデンスが比較的よく示されている介入です。高リン血症はミネラル骨代謝異常と進行に関与するため、食事で目標が達成できない場合はリン吸着剤を併用し、血清リンを病期別の目標域へ近づけます。

蛋白尿への介入

持続する蛋白尿に対しては、RAAS阻害(ACE阻害薬やARB=テルミサルタンなど)でUPCの低減を図ります。導入後はクレアチニン・カリウム・血圧を再評価し、過度の腎機能低下や高カリウム血症がないか確認します。

高血圧への介入

標的臓器障害リスクが高い血圧域では降圧治療を検討します。薬剤選択・目標血圧は基礎病態により異なるため、最新のコンセンサスに沿って段階的に調整し、急激な降圧は避けます。

Stage 3〜4:尿毒症・合併症対策

  • 食欲不振・悪心:制吐薬(マロピタントなど)、胃酸分泌抑制、栄養確保(経腸栄養チューブの検討)
  • 貧血:鉄評価のうえ赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の検討
  • 代謝性アシドーシス:重炭酸補正の検討
  • 電解質異常(カリウム・カルシウム・リン)の補正
  • 脱水管理:在宅皮下輸液の指導を含む

モニタリングと予後の説明

CKDは進行性のため、ステージに応じた間隔で再評価し、進行速度(クレアチニン・SDMA・UPC・血圧の推移)を把握します。飼い主には『治癒ではなく進行を緩やかにし、QOLを保つ治療』であること、在宅ケア(療法食の継続、飲水、皮下輸液、投薬)の重要性を丁寧に説明することが、長期管理の成否を左右します。

学習のポイント
『ステージ(クレアチニン/SDMA)×サブステージ(蛋白尿・血圧)』のマトリクスで個別化するのがIRISの思想です。数値の暗記より、なぜその介入が進行抑制につながるのか(リン・蛋白尿・血圧の3軸)を理解することが臨床応用に直結します。

参考・一次情報源

  • International Renal Interest Society (IRIS) — IRIS Staging of CKD および各治療勧告(iris-kidney.com)
  • ACVIM コンセンサスステートメント(全身性高血圧の診断・治療に関するもの 等)
  • WSAVA Global Nutrition Guidelines(栄養評価の一般原則)
  • 日本獣医腎泌尿器学会など国内学会の教育資料・セミナー

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