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臨床総説

Photo: Tahir Xəlfə / Pexels

臨床総説2026-05-21・約9分で読めます

猫の慢性腎臓病(CKD)— IRISステージ分類と管理 臨床総説

高齢猫に非常に多い慢性腎臓病(CKD)について、IRISステージ分類(クレアチニン・SDMA、蛋白尿・血圧サブステージ)と、リン管理・療法食・蛋白尿/高血圧への介入、甲状腺機能亢進症によるマスキングなど猫特有の注意点を、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

猫の慢性腎臓病(CKD)— IRISステージ分類と管理 臨床総説のイメージ
Photo: Tima Miroshnichenko / Pexels

慢性腎臓病(CKD)は高齢猫で最も頻度の高い慢性疾患の一つで、加齢とともに有病率が上昇します。多くは緩徐進行性で、診断時にはネフロン機能の相当部分が失われていることも少なくありません。本稿では国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)のステージ分類を軸に、猫特有の注意点を含めて診断・管理の考え方を整理します。

本記事の位置づけ(必読)
本記事は獣医師・動物看護師向けの一般的な学習用総説です。診断基準値・薬剤・用量は改訂され得るため、実臨床ではIRIS公式(iris-kidney.com)および各製剤の添付文書・最新コンセンサスを必ず確認してください。

猫のCKDの特徴

猫のCKDの多くは慢性尿細管間質性腎炎を背景とし、原因が特定できないことも多い疾患です。多飲多尿、体重減少、食欲不振、被毛粗剛、脱水傾向が典型像ですが、初期は無症状で、健康診断や他疾患の精査で偶発的に発見されることもあります。一度失われたネフロンは再生しないため、治療目標は進行抑制・合併症管理・QOL維持です。

IRISステージ分類(猫)

安定期に複数回測定した空腹時の血清クレアチニン(補助指標としてSDMA)でステージ1〜4に分類し、さらに蛋白尿と血圧でサブステージを付与します。脱水や急性増悪のない安定した状態で評価するのが原則で、猫はクレアチニンの基準域が犬と異なる点に注意します。

ステージ血清クレアチニン(猫, mg/dL)目安SDMA(µg/dL)目安臨床的特徴
Stage 1< 1.6< 18高窒素血症なし。他の腎異常所見で疑う
Stage 21.6 – 2.818 – 25軽度高窒素血症。臨床徴候は乏しい〜軽度
Stage 32.9 – 5.026 – 38中等度。全身性の臨床徴候が出現
Stage 4> 5.0> 38重度。尿毒症リスクが高い
SDMAと筋肉量の関係
高齢で削痩した猫はクレアチニンが筋肉量低下により低めに出やすく、CKDを過小評価する恐れがあります。SDMAは筋肉量の影響を受けにくくGFR低下を早期に反映しやすいため、痩せた高齢猫の評価で特に有用です。ただし単独で確定せず、複数指標と経過で総合判断します。

サブステージ①:蛋白尿(UPC)

区分UPC(猫)目安
非蛋白尿(NP)< 0.2
境界域(BP)0.2 – 0.4
蛋白尿(P)> 0.4

蛋白尿は猫CKDでも進行・予後悪化と関連する独立因子です。腎前性・腎後性・炎症性要因を除外したうえで評価し、持続する蛋白尿は介入対象になります。

サブステージ②:血圧

高齢猫では全身性高血圧の合併が多く、網膜剥離・出血による急性失明など標的臓器障害のリスクがあります。静かな環境で複数回測定し、収縮期血圧でリスクを層別化します。

リスク区分収縮期血圧(mmHg)目安
正常血圧< 140
前高血圧140 – 159
高血圧160 – 179
重度高血圧≥ 180
甲状腺機能亢進症によるマスキング
甲状腺ホルモン過剰はGFRを上げてクレアチニンを低く見せます。甲状腺機能亢進症の治療で甲状腺が正常化すると潜在CKDが顕在化することがあるため、両疾患は併せて評価・モニタリングします。

ステージ別管理の考え方

全ステージ共通

  • 可逆的要因(脱水、尿路感染・腎盂腎炎、尿路閉塞、腎毒性薬剤)の同定と是正
  • 飲水量の確保(ウェットフード活用、給水方法の工夫、必要に応じ皮下輸液)
  • 腎毒性薬剤・NSAIDsの慎重な使用
  • ステージに応じた間隔での再評価と進行速度のモニタリング

リン管理と腎臓病用療法食

腎臓病用療法食(リン制限、蛋白質の質と量の最適化、オメガ3付加、緩衝など)は猫CKDで生存期間延長のエビデンスが比較的よく示された介入です。高リン血症は進行とミネラル骨代謝異常に関与するため、食事で目標が達成できない場合はリン吸着剤を併用し、病期別の目標域へ近づけます。嗜好性の問題で導入が難しいことも多く、段階的な切り替えと複数製剤の試用が実務的に重要です。

蛋白尿・高血圧への介入

持続する蛋白尿にはRAAS阻害(テルミサルタン等)でUPCの低減を図り、導入後はクレアチニン・カリウム・血圧を再評価します。高血圧で標的臓器障害リスクが高い場合は降圧治療を検討します(猫ではアムロジピンが用いられることが多い)。急激な降圧は避け、最新コンセンサスに沿って段階的に調整します。

Stage 3〜4:尿毒症・合併症対策

  • 食欲不振・悪心:制吐薬、胃酸分泌抑制、食欲刺激(ミルタザピン等)、栄養確保
  • 低カリウム血症:猫では比較的多く、補正を検討
  • 貧血:鉄評価のうえ赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の検討
  • 代謝性アシドーシスの補正、脱水管理(在宅皮下輸液の指導)

モニタリングと飼い主への説明

猫は不調を隠しやすく、飼い主が変化に気づきにくい動物です。ステージに応じた再評価でクレアチニン・SDMA・UPC・血圧・体重の推移を追い、在宅ケア(療法食の継続、飲水、皮下輸液、投薬)の重要性を丁寧に伝えます。『治癒ではなく進行を緩やかにしQOLを保つ治療』という枠組みの共有が、長期管理の成否を左右します。

学習のポイント
犬CKDと同じく『ステージ×サブステージ』で個別化するのがIRISの思想ですが、猫では低カリウム血症・甲状腺機能亢進症の合併・療法食の嗜好性という実務的な壁が加わります。数値暗記より、リン・蛋白尿・血圧の3軸と猫特有の併発をセットで理解しましょう。

参考・一次情報源

  • International Renal Interest Society (IRIS) — IRIS Staging of CKD と各治療勧告(iris-kidney.com)
  • ISFM / AAFP の猫CKD・高血圧に関するコンセンサスガイドライン
  • ACVIM コンセンサスステートメント(全身性高血圧 等)
  • 日本獣医腎泌尿器学会など国内学会の教育資料・セミナー

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