臨床総説Photo: Mikhail Nilov / Pexels
犬の多中心型リンパ腫 — 診断・免疫表現型と化学療法 臨床総説
犬で最も一般的な多中心型リンパ腫について、全身性リンパ節腫大の診断(細胞診からフローサイトメトリー・クローナリティ検査による確定と免疫表現型)、病期分類、CHOPベースの多剤併用化学療法とステロイド単独療法の位置づけ、診断前のステロイド開始を避ける理由を、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

リンパ腫は犬で最も一般的な造血器腫瘍で、なかでも全身のリンパ節が腫れる多中心型が大半を占めます。多くは化学療法によく反応し、適切に治療すれば良好な寛解とQOLの維持が期待できる『治療しがいのある』腫瘍です。本稿で診断から治療選択までの考え方を整理します。
臨床像
多中心型では、下顎・肩前・膝窩など末梢リンパ節の左右対称性の無痛性腫大が特徴で、初期は元気・食欲が保たれることも少なくありません(病期サブステージa)。進行すると食欲不振・体重減少・発熱など全身症状(サブステージb)が出ます。高カルシウム血症の合併(とくにT細胞性で多い傾向)にも注意します。
診断と確定
腫大リンパ節の細胞診(FNA)で大型リンパ球の単調な増殖を捉えるのが入口です。ただし反応性過形成との鑑別や治療方針決定のため、確定と病型分類には追加検査が有用です。
- 細胞診(FNA):スクリーニングと初期診断
- 病理組織検査:確定と病型分類
- フローサイトメトリー/免疫染色:B細胞性かT細胞性かの免疫表現型
- クローナリティ検査(PARR):腫瘍性かどうかの補助
- 病期診断:血液検査、画像(胸腹部)、必要に応じ骨髄評価
治療の選択肢
| 治療 | 考え方 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 多剤併用化学療法(CHOPベース) | 複数の抗がん剤を組み合わせる標準治療 | 高い寛解率。第一選択とされることが多い |
| 単剤プロトコル | 通院・コスト・副作用を抑える | 状況に応じた選択肢 |
| ステロイド単独(緩和) | QOL重視・化学療法を行わない場合 | 寛解期間は短く、後の化学療法効果を下げ得る |
| 放射線・その他 | 局所・特定病型で検討 | 症例により併用 |
標準治療であるCHOPベースの多剤併用化学療法は、多くの症例で高率に寛解を導き、良好なQOLでの延命が期待できます。多くは外来で実施可能で、重篤な副作用は比較的少なく管理可能とされますが、好中球減少・消化器症状などのモニタリングと支持療法が前提です。完治を目指す治療というより、寛解の導入・維持を重ねる管理として説明します。
飼い主への説明
治療の目的(多くは『完治』ではなく『良いQOLでの寛解と延命』)、費用と通院負担、期待できる寛解期間、副作用とモニタリング、無治療/緩和という選択肢も含めて率直に共有し、家族の価値観に沿った意思決定を支援します。
参考・一次情報源
- 獣医腫瘍学(Withrow & MacEwen 等)の標準教科書
- 犬リンパ腫の病期分類・化学療法に関する総説・コンセンサス
- 各抗がん剤の取り扱い・安全管理に関する指針
- 日本獣医がん学会の教育資料・セミナー
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