臨床総説Photo: Mikhail Nilov / Pexels
犬猫の慢性腸症(CE/IBD)— 治療反応による分類と段階的アプローチ 臨床総説
犬猫の慢性腸症(CE)について、3週間以上続く消化器徴候の除外診断、治療反応による分類(食事反応性・抗菌薬反応性・免疫抑制反応性)、食事試験・コバラミン評価・内視鏡生検の位置づけ、抗菌薬適正使用の観点を、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

慢性腸症(CE: Chronic Enteropathy)は、3週間以上持続または反復する消化器徴候(嘔吐、下痢、体重減少、食欲不振)を呈し、他の原因が除外される一群の総称です。かつて『IBD(炎症性腸疾患)』とまとめられていた病態は、近年『治療への反応』で分類する考え方が主流になっています。
まず器質的・全身性疾患を除外する
CEは除外診断です。寄生虫、膵外分泌不全(EPI)、肝・腎疾患、甲状腺機能低下症(犬)/亢進症(猫)、副腎皮質機能低下症、腫瘍(とくに猫の消化器型リンパ腫)、異物・閉塞などを段階的に除外します。
- 糞便検査(寄生虫・原虫)、必要に応じ駆虫的治療
- 血液・生化学、TLI(EPIの評価)、コバラミン/葉酸
- 猫では総T4(甲状腺機能亢進症の除外)
- 腹部超音波(腸管壁構造、リンパ節、腫瘤、閉塞の評価)
治療反応による分類
診断的治療への反応で次のように分類するのが現在の枠組みです。最初から侵襲的検査に進むのではなく、状態が許せば食事試験から段階的に進めます。
| 分類 | 定義の要点 | 対応 |
|---|---|---|
| 食事反応性(FRE) | 食事変更で寛解する最多群 | 新規/加水分解蛋白食などの食事試験 |
| 抗菌薬反応性(ARE) | 抗菌薬で反応するが再発しやすい | 適正使用の観点から安易な長期投与は見直す |
| 免疫抑制反応性(IRE/旧IBD) | 食事・抗菌薬で反応せず免疫抑制が必要 | 生検で炎症を確認後にステロイド等 |
| 非反応性(NRE) | 上記で反応しない | 再精査・予後不良群を含む |
食事試験の進め方
状態が安定した症例では、加水分解蛋白食または新規蛋白食を用いた食事試験を、おやつ・他の食べ物を完全に除いて2〜4週間程度行い反応をみます。反応すれば食事反応性として食事管理を継続します。重要なのは『その食事だけを完全に給与する』ことで、家族全員の協力が成否を分けます。
コバラミン(ビタミンB12)の評価と補充
慢性の腸疾患では回腸でのコバラミン吸収が障害され、低コバラミン血症が予後悪化と関連します。測定して低値であれば補充を行います。とくに猫では見逃されやすく、評価する価値が高い項目です。
内視鏡・生検と免疫抑制療法
食事・(適応があれば)その他の段階で反応せず免疫抑制を検討する前には、内視鏡や生検で炎症の性状を確認し、消化器型リンパ腫との鑑別を行うことが重要です。炎症が確認されればグルココルチコイドを中心に、必要に応じ追加の免疫抑制薬を用います。猫では慢性腸症とリンパ腫が連続的にとらえられる場面もあり、病理評価が方針を左右します。
参考・一次情報源
- ACVIM コンセンサスステートメント(犬猫の慢性腸症に関するもの)
- WSAVA 消化器・栄養関連のガイドライン
- 各療法食・薬剤の添付文書
- 日本獣医内科学アカデミー等の教育資料・セミナー
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