臨床総説Photo: Mikhail Nilov / Pexels
犬猫の角膜潰瘍 — 深度評価と治療、やってはいけないこと 臨床総説
犬猫の角膜潰瘍について、フルオレセイン染色による診断と深度評価(表層・実質・デスメ膜瘤・穿孔)、原因検索(乾性角結膜炎・眼瞼内反・異物・感染)、難治性のSCCED、融解性潰瘍という緊急病態、ステロイド点眼の禁忌を、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

角膜潰瘍(角膜びらん〜潰瘍)は一般診療で頻度の高い眼科疾患です。多くは適切な対応で速やかに治癒しますが、深い潰瘍や融解性潰瘍は短時間で穿孔・失明に至る緊急病態になり得ます。『深さの評価』と『原因の特定』、そして『ステロイド点眼を避ける』ことが診療の要です。
診断と深度評価
フルオレセイン染色は基本検査です。色素が染まる範囲・深さで潰瘍を評価し、深部に進むほど緊急度が上がります。デスメ膜が露出した『デスメ膜瘤』はフルオレセインが中央で染まらず周囲だけ染まる像を示し、穿孔寸前のサインです。
| 深度 | 所見の要点 | 緊急度 |
|---|---|---|
| 表層びらん/潰瘍 | 上皮欠損のみ。多くは数日で治癒 | 低(原因治療が中心) |
| 実質潰瘍 | 角膜実質に及ぶ欠損 | 中〜高 |
| デスメ膜瘤 | デスメ膜が露出し膨隆、中央が染まらない | 高(穿孔寸前) |
| 穿孔 | 前房と交通、虹彩脱出など | 最緊急(外科) |
原因を必ず探す
潰瘍は『結果』であり、背景に治療すべき原因があることが多い疾患です。原因を放置すると治癒しない・再発するため、初診で必ず検索します。
- 外傷・異物(眼瞼結膜の精査、必要に応じ翻転)
- 乾性角結膜炎(KCS):シルマー涙液試験で評価
- 解剖学的要因:眼瞼内反、異所性睫毛、睫毛乱生
- 三叉/顔面神経の異常、兎眼(閉瞼不全)
- 感染(細菌・真菌・猫ではFHV-1など)
難治性の表層潰瘍(SCCED)
中高齢犬で、表層なのに治癒せず潰瘍縁の上皮が浮いて広がる病態は、特発性の難治性角膜上皮欠損(SCCED/いわゆる不顕性潰瘍・ボクサー潰瘍)と呼ばれます。基底膜の接着不良が原因で、単なる点眼では治りにくく、浮いた上皮のデブリードマンや格子状角膜切開などの処置が必要になります。
融解性潰瘍は緊急
感染や酵素活性により角膜実質が『溶ける』融解性潰瘍は、数時間〜日単位で急速に進行します。集中的な抗菌点眼に加え、コラーゲン分解を抑える目的の血清点眼などが用いられ、進行例では結膜フラップなどの外科的処置が必要です。穿孔リスクが高く、眼科専門施設への速やかな相談・紹介を検討します。
基本的な治療の組み立て
- 原因の除去・治療(内反・異物・KCSなど)
- 感染対策としての抗菌点眼(深い/融解では頻回投与)
- 毛様体痙攣・疼痛に対するアトロピン点眼(散瞳・鎮痛目的)
- 自己外傷の防止(エリザベスカラー)
- 深部潰瘍・デスメ膜瘤・穿孔・難治例は外科/専門紹介を検討
参考・一次情報源
- 獣医眼科学の標準教科書
- 角膜潰瘍・SCCEDの管理に関する総説・コンセンサス
- 各点眼薬の添付文書
- 日本獣医眼科カンファランス等の教育資料・セミナー
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