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デジタル獣医療

Photo: Vladimir Srajber / Pexels

デジタル獣医療2026-06-04・約10分で読めます

WSIのしくみ — スキャナ・解像度・ファイル形式・ストレージ【デジタル病理シリーズ②】

全スライドイメージング(WSI)はどのようにガラス標本をデジタル化するのか。スキャナの構造、解像度と倍率(µm/pixel)、組織と細胞診で異なる焦点・Zスタック、ベンダー独自形式とDICOM WSI(Supplement 145)、ファイル容量とストレージ設計までを、一次情報源を示しながら解説します。

文:獣医求人ポスト編集部公開 2026-06-04
目次
  1. スキャナのしくみ — どうデジタル化するのか
  2. 解像度と倍率(µm/pixel)
  3. 焦点とZスタック — 細胞診がむずかしい理由
  4. ファイル形式と相互運用性 — DICOMへ
  5. ストレージとワークフロー設計
  6. 獣医現場での含意
  7. 参考文献・一次情報源
WSIのしくみ — スキャナ・解像度・ファイル形式・ストレージ【デジタル病理シリーズ②】のイメージ
Photo: cottonbro studio / Pexels

シリーズ序論では、デジタル病理の核が『全スライドイメージング(WSI)』であることを述べました。本稿ではその中身、すなわちスキャナがどのようにガラス標本をデジタル化し、どの解像度で、どんなファイルとして保存され、どれだけの容量とストレージを要するのかを掘り下げます。ここを理解すると、導入時の機種選定・コスト・運用設計の勘所が見えてきます。

本記事はシリーズ第2回です
第1回『獣医デジタル病理の全体像』の続きとして、WSIの技術的な仕組みを扱います。次回(第3回)はAIによる画像解析の実際と限界を取り上げます。

スキャナのしくみ — どうデジタル化するのか

WSIスキャナは、対物レンズ越しにガラス標本を高解像度カメラで撮像し、自動ステージで標本面を少しずつ移動させながら、タイル状(または線状)に取り込んだ画像を1枚の巨大なデジタル標本へ合成します。多くは明視野(H&E等)が中心で、免疫蛍光に対応する蛍光スキャナもあります。撮像の良し悪しは、オートフォーカスの精度・照明・色再現・スキャン速度に左右されます(Zuraw & Aeffner, 2022)。

  • 対物レンズ:20倍・40倍などで標本を拡大して撮像
  • カメラ/センサ:高解像度で各視野を取得
  • 自動ステージ:標本面を移動して全面を走査
  • オートフォーカス:面内のピントを合わせ続ける
  • 照明・光学系:色再現とコントラストを決める

解像度と倍率(µm/pixel)

デジタル病理では『1画素が標本上の何µmに相当するか(µm/pixel)』が実質的な解像度です。一般的な機種では、20倍相当で約0.5µm/pixel、40倍相当で約0.25µm/pixelです。さらに高解像度の機種では63倍相当(約0.16µm/pixel)や83倍相当(約0.12µm/pixel)も提供されます。高解像度ほど微細構造は見えますが、容量とスキャン時間が増えるため、診断目的に応じて選びます。

0.25µm/px
40倍相当の解像度(高倍)
0.5µm/px
20倍相当の解像度(標準)
1.5GB+/枚
40倍・単一焦点面の概算ファイル容量
倍率(相当)解像度の目安主な用途
20倍約0.5 µm/pixelスクリーニング・広い視野
40倍約0.25 µm/pixel通常の組織診断
63〜83倍約0.12〜0.16 µm/pixel微細構造・特殊用途

焦点とZスタック — 細胞診がむずかしい理由

組織標本(薄切切片)は薄く平坦なため、多くの場合は単一の焦点面で十分です。一方、細胞診の標本は細胞集塊が立体的(3次元的)で厚みがあり、1つの焦点面だけでは集塊の内部までピントが合いません。そこで複数の焦点面を重ねて撮る『Zスタック』が必要になりますが、これは容量とスキャン・閲覧時間を大きく押し上げます。例えば10焦点面を撮ると容量はおよそ10倍になり、2GBの標本が20GBに膨らみます(video compression review, 2019)。HEVC等の動画系圧縮でZスタックの容量を抑える研究も進んでいます。

組織より細胞診のデジタル化が難しい
細胞診はZスタックが要るため、容量・時間・装置要件が組織標本より重くなります。デジタル細胞診の導入は、必要な焦点面数とストレージ設計をセットで検討する必要があります。

ファイル形式と相互運用性 — DICOMへ

WSIには長らくベンダー独自のファイル形式が使われてきました(Aperio/LeicaのSVS、HamamatsuのNDPI、3DHISTECHのMRXS、VentanaのBIF、PhilipsのiSyntaxなど)。独自形式はスキャナやビューアに紐づくため、検査情報システム(LIS)との連携や、異なる機器間の相互運用が難しいという課題があります。これを解決するのが、ベンダー中立の標準であるDICOM WSIです。DICOMのWG-26がSupplement 145(2010年批准)で、可視光の全スライド顕微鏡画像の取り扱い(タイル化したマルチフレーム画像・多解像度ピラミッド)を定義しました(Singh et al.; Herrmann et al.)。

  • 主な独自形式:SVS / NDPI / MRXS / BIF / iSyntax(スキャナ依存)
  • 課題:ビューア・LIS連携・機器間の相互運用が困難
  • DICOM WSI:ベンダー中立で保存・交換・閲覧を標準化(相互運用の鍵)
  • 多解像度ピラミッド:拡大・移動を高速化する画像構造

ストレージとワークフロー設計

1枚あたり1.5GBを超えることも珍しくなく、Zスタックを使う細胞診ではさらに増えます。年間の検体数を掛け合わせると、保存容量は急速に大きくなります。閲覧の快適さは『多解像度ピラミッド型タイル』に支えられ、必要な倍率・領域だけを読み込むことで広大な画像を滑らかに操作できます。実装では、アーカイブ・検索・バックアップ・LIS連携・回線帯域を含めた設計が要点になります。

WSI画像のライフサイクル
スキャン(タイル撮像→合成)
多解像度ピラミッド化(高速閲覧用)
保存(独自形式 / DICOM WSI)
画像管理システム・LISと連携
閲覧・解析・アーカイブ

獣医現場での含意

組織標本は単一焦点面で扱いやすく、院内スキャナや参照ラボへの送信でも導入のハードルは比較的低めです。一方、デジタル細胞診はZスタックとストレージ要件が高く、機種選定と運用設計がより重要になります。形式は当面、独自形式とDICOM WSIが併存しますが、相互運用と将来の拡張を見据えるならDICOM対応は重要な評価軸です。次回(第3回)では、こうしてデジタル化された画像をAIがどう解析し、どこに限界があるのかを掘り下げます。

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参考文献・一次情報源

  1. Zuraw A, Aeffner F. Whole-slide imaging, tissue image analysis, and artificial intelligence in veterinary pathology: An updated introduction and review. Veterinary Pathology, 2022.(Veterinary Pathology)
  2. DICOM Whole Slide Imaging (WSI)(WG-26 の公式情報)(DICOM / NEMA)
  3. Singh R, et al. Standardization in digital pathology: Supplement 145 of the DICOM standards.(PMC)
  4. Herrmann MD, et al. Implementing the DICOM Standard for Digital Pathology.(PMC)
  5. Video compression to support the expansion of whole-slide imaging into cytology(Zスタックと容量・圧縮)(PMC)
  6. Whole slide imaging in pathology: advantages, limitations, and emerging perspectives.(Pathology and Laboratory Medicine International)
  7. Digital Pathology Association — FAQ(基礎用語・技術の概説)(Digital Pathology Association)

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