臨床総説Photo: Mikhail Nilov / Pexels
犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)— 診断と治療 臨床総説
犬のクッシング症候群について、PDH(下垂体性)とADH(副腎腫瘍性)の違い、臨床徴候、スクリーニング・確定・局在診断(ACTH刺激試験、低用量デキサメサゾン抑制試験、画像)と、トリロスタンを中心とした治療・モニタリングの考え方を、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は中〜高齢犬に多い内分泌疾患で、慢性的なコルチゾール過剰により多彩な全身症状を呈します。下垂体性(PDH)と副腎腫瘍性(ADH)、そして医原性(ステロイド投与)に大別され、診断は『臨床的に疑い、複数の検査で裏づける』姿勢が重要です。本稿で診断の進め方と治療の考え方を整理します。
病型の整理
| 病型 | 原因 | おおよその割合の傾向 |
|---|---|---|
| PDH(下垂体性) | 下垂体腺腫によるACTH過剰 | 自然発生例の大多数 |
| ADH(副腎性) | 副腎の機能性腫瘍(腺腫/腺癌) | 自然発生例の一部 |
| 医原性 | 外因性ステロイドの投与 | 病歴で判明 |
典型的な臨床徴候
- 多飲多尿(PU/PD)、多食
- 腹部膨満(ポットベリー)、筋力低下
- 左右対称性の脱毛、皮膚の菲薄化、色素沈着、石灰沈着症
- パンティング、易感染性(特に尿路感染)
- 高血圧、蛋白尿、血栓塞栓リスクの上昇
診断の進め方
クッシングの検査は偽陽性・偽陰性が起こり得るため、『臨床徴候が乏しい段階でのスクリーニングは避ける』のが原則です。臨床的に強く疑う症例で、まず機能診断(亢進の有無)を行い、次に局在診断(PDHかADHか)へ進みます。
①機能診断(スクリーニング/確定)
- ACTH刺激試験:医原性の検出に有用。感度はやや低め
- 低用量デキサメサゾン抑制試験(LDDST):感度が高く、抑制パターンから局在の手がかりも得られる
- 尿コルチゾール/クレアチニン比(UCCR):陰性であれば除外に役立つ(陽性は確定的でない)
②局在診断(PDH vs ADH)
- LDDSTの抑制パターン、内因性ACTH濃度
- 腹部超音波(両側副腎の対称性腫大はPDH、片側腫瘤+対側萎縮はADHを示唆)
- 必要に応じCT/MRI(下垂体腫瘍の評価、副腎腫瘍の血管浸潤評価)
治療の考え方
内科治療(PDHの第一選択)
PDHの多くはトリロスタン(コルチゾール合成阻害)による内科管理が中心です。治療目標は『臨床徴候の改善』であり、検査値の正常化そのものではありません。過剰抑制は医原性アジソン(低コルチゾール)クリーゼを招くため、開始後はモニタリングを行いながら慎重に用量調整します。用量・投与回数・モニタリング法は製剤と最新コンセンサスに従います。
外科・放射線治療
- ADH:浸潤や転移がなければ副腎摘出術で根治が期待できる(周術期管理は高度)
- PDH:下垂体摘出術(実施施設は限定的)や、神経症状を伴う大きな下垂体腫瘍への放射線治療が選択肢
併発疾患と全身管理
クッシングは糖尿病のインスリン抵抗性、高血圧、蛋白尿、尿路感染、膵炎、血栓塞栓症など多くの併発と関連します。糖尿病コントロール不良犬では背景にクッシングが隠れていることがあり、内分泌は単独でなく全身として評価する視点が重要です。
参考・一次情報源
- ACVIM コンセンサスステートメント(犬の副腎皮質機能亢進症の診断に関するもの)
- 各治療薬(トリロスタン等)の添付文書
- 標準的な内分泌学・内科学の教科書
- 日本獣医内科学アカデミー等の教育資料・セミナー
内分泌診療は検査の解釈力が問われる領域です。検査体制と症例数のある病院での経験が学習を加速します。獣医求人ポストの『専門分野』フィルターで内科に強い病院を探せます。
全国の動物病院求人を比較・検索できます
求人を探す