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臨床総説

Photo: Mikhail Nilov / Pexels

臨床総説2026-05-22・約9分で読めます

犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)— 診断と治療 臨床総説

犬のクッシング症候群について、PDH(下垂体性)とADH(副腎腫瘍性)の違い、臨床徴候、スクリーニング・確定・局在診断(ACTH刺激試験、低用量デキサメサゾン抑制試験、画像)と、トリロスタンを中心とした治療・モニタリングの考え方を、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)— 診断と治療 臨床総説のイメージ
Photo: Samson Katt / Pexels

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は中〜高齢犬に多い内分泌疾患で、慢性的なコルチゾール過剰により多彩な全身症状を呈します。下垂体性(PDH)と副腎腫瘍性(ADH)、そして医原性(ステロイド投与)に大別され、診断は『臨床的に疑い、複数の検査で裏づける』姿勢が重要です。本稿で診断の進め方と治療の考え方を整理します。

本記事の位置づけ(必読)
本記事は獣医師・動物看護師向けの一般的な学習用総説です。検査プロトコル・判定基準・薬剤用量・モニタリング間隔は製剤と最新コンセンサスで異なります。実臨床ではACVIMコンセンサスや各製剤の添付文書を必ず確認してください。

病型の整理

病型原因おおよその割合の傾向
PDH(下垂体性)下垂体腺腫によるACTH過剰自然発生例の大多数
ADH(副腎性)副腎の機能性腫瘍(腺腫/腺癌)自然発生例の一部
医原性外因性ステロイドの投与病歴で判明

典型的な臨床徴候

  • 多飲多尿(PU/PD)、多食
  • 腹部膨満(ポットベリー)、筋力低下
  • 左右対称性の脱毛、皮膚の菲薄化、色素沈着、石灰沈着症
  • パンティング、易感染性(特に尿路感染)
  • 高血圧、蛋白尿、血栓塞栓リスクの上昇
検査値の手がかり
ALP著明上昇(ステロイド誘導性アイソザイム)、高コレステロール血症、ストレス白血球像(好中球増多・リンパ球/好酸球減少)、尿比重低下などが手がかりになります。ただしこれらは非特異的で、確定診断には内分泌検査が必要です。

診断の進め方

クッシングの検査は偽陽性・偽陰性が起こり得るため、『臨床徴候が乏しい段階でのスクリーニングは避ける』のが原則です。臨床的に強く疑う症例で、まず機能診断(亢進の有無)を行い、次に局在診断(PDHかADHか)へ進みます。

①機能診断(スクリーニング/確定)

  • ACTH刺激試験:医原性の検出に有用。感度はやや低め
  • 低用量デキサメサゾン抑制試験(LDDST):感度が高く、抑制パターンから局在の手がかりも得られる
  • 尿コルチゾール/クレアチニン比(UCCR):陰性であれば除外に役立つ(陽性は確定的でない)

②局在診断(PDH vs ADH)

  • LDDSTの抑制パターン、内因性ACTH濃度
  • 腹部超音波(両側副腎の対称性腫大はPDH、片側腫瘤+対側萎縮はADHを示唆)
  • 必要に応じCT/MRI(下垂体腫瘍の評価、副腎腫瘍の血管浸潤評価)
非甲状腺疾患・併発疾患に注意
重度の併発疾患や非副腎性疾患は内分泌検査を偽陽性に傾けます。状態が不安定なときの検査は解釈を誤らせるため、可能な範囲で全身状態を整えてから評価します。

治療の考え方

内科治療(PDHの第一選択)

PDHの多くはトリロスタン(コルチゾール合成阻害)による内科管理が中心です。治療目標は『臨床徴候の改善』であり、検査値の正常化そのものではありません。過剰抑制は医原性アジソン(低コルチゾール)クリーゼを招くため、開始後はモニタリングを行いながら慎重に用量調整します。用量・投与回数・モニタリング法は製剤と最新コンセンサスに従います。

アジソンクリーゼの警告サイン
食欲不振・元気消失・嘔吐・下痢・虚脱が出たら過剰抑制(医原性副腎皮質機能低下)を疑い、投薬を中止して評価します。飼い主にこれらの徴候と緊急受診の必要性を必ず説明しておきます。

外科・放射線治療

  • ADH:浸潤や転移がなければ副腎摘出術で根治が期待できる(周術期管理は高度)
  • PDH:下垂体摘出術(実施施設は限定的)や、神経症状を伴う大きな下垂体腫瘍への放射線治療が選択肢

併発疾患と全身管理

クッシングは糖尿病のインスリン抵抗性、高血圧、蛋白尿、尿路感染、膵炎、血栓塞栓症など多くの併発と関連します。糖尿病コントロール不良犬では背景にクッシングが隠れていることがあり、内分泌は単独でなく全身として評価する視点が重要です。

学習のポイント
クッシングは『検査で見つけにいく病気』ではなく『臨床で疑って裏づける病気』です。検査の感度・特異度と限界を理解し、治療では検査値より臨床徴候を指標にしつつ過剰抑制を避ける——この2点が診療の質を分けます。

参考・一次情報源

  • ACVIM コンセンサスステートメント(犬の副腎皮質機能亢進症の診断に関するもの)
  • 各治療薬(トリロスタン等)の添付文書
  • 標準的な内分泌学・内科学の教科書
  • 日本獣医内科学アカデミー等の教育資料・セミナー

内分泌診療は検査の解釈力が問われる領域です。検査体制と症例数のある病院での経験が学習を加速します。獣医求人ポストの『専門分野』フィルターで内科に強い病院を探せます。

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