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臨床総説

Photo: Mikhail Nilov / Pexels

臨床総説2026-05-23・約9分で読めます

犬の僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)— ACVIMステージ分類と管理 臨床総説

小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)について、ACVIMステージ分類(A・B1・B2・C・D)の考え方、ステージB2の判定基準とピモベンダン導入の根拠(EPIC試験)、うっ血性心不全(C)の治療、モニタリングのポイントを、一次情報源を示しながら総説としてまとめました。

犬の僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)— ACVIMステージ分類と管理 臨床総説のイメージ
Photo: Javid Hashimov / Pexels

粘液腫様僧帽弁変性症(MMVD: Myxomatous Mitral Valve Disease)は、犬で最も多い後天性心疾患です。とくにキャバリア・チワワ・マルチーズ・ダックスなど小型犬の高齢個体に多く、緩徐に進行して最終的にうっ血性心不全(CHF)に至ります。本稿ではACVIMコンセンサスのステージ分類を軸に、いつ・何を介入するかを整理します。

本記事の位置づけ(必読)
本記事は獣医師・動物看護師向けの一般的な学習用総説です。判定基準値・薬剤・用量は改訂され得るため、実臨床では最新のACVIMコンセンサスガイドラインと各製剤の添付文書を必ず確認してください。

病態の概略

僧帽弁の粘液腫様変性により弁の閉鎖が不完全になり、収縮期に左房へ逆流が生じます。慢性的な容量負荷で左房・左室が拡大し、代償が破綻するとうっ血性心不全(多くは肺水腫)に至ります。聴診では左心尖部の収縮期逆流性雑音が特徴で、雑音の存在=心不全ではない点が臨床判断の出発点です。

ACVIMステージ分類

ステージ定義の要点介入の方向性
A好発犬種など高リスクだが心雑音なし・構造異常なし定期的な聴診・経過観察
B1雑音あり・逆流ありだが心拡大が基準未満原則は経過観察と定期評価
B2雑音あり+有意な左房/左室拡大(基準を満たす)ピモベンダン導入の検討
C現在または過去にうっ血性心不全の徴候あり心不全治療(利尿薬+ピモベンダン 等)
D標準治療に難治なうっ血性心不全治療強化・難治例管理
ACVIMステージの進行と介入の方向性
A高リスク(雑音なし)好発犬種など。聴診で経過観察
B1無症候・心拡大なし原則は経過観察と定期評価
B2無症候・心拡大ありピモベンダン導入を検討
C心不全の既往/現症利尿薬+ピモベンダン等で治療
D難治性心不全治療強化・難治例管理
B1とB2を分ける意味
無症候の段階(ステージB)を、心拡大の有無で『経過観察でよいB1』と『薬物介入を検討するB2』に分けるのがこの分類の肝です。B2の判定は心拡大の客観評価に基づき、ここを正しく見極めることが早期介入の質を決めます。

ステージB2の判定

B2の判定は『有意な心拡大』の客観的評価が要で、胸部X線の心拡大指標(VHS: vertebral heart score)と心エコー指標(左房/大動脈比=LA/Ao、左室拡張末期内径の体重補正値=LVIDDN)を組み合わせて評価します。各指標には合意されたカットオフがあり、これを満たす無症候例がB2に分類されます。具体的な閾値は最新コンセンサスを参照してください。

  • 聴診:左心尖部の収縮期逆流性雑音(強度の経時変化も参考)
  • 胸部X線:VHSによる心拡大評価、肺野の評価(うっ血/肺水腫の有無)
  • 心エコー:LA/Ao、LVIDDN による左房・左室拡大の定量
  • 必要に応じ血圧・腎機能・電解質(治療前ベースライン)
雑音から介入までの判断フロー
聴診で左心尖部の収縮期逆流性雑音を確認
心拡大を評価(胸部X線VHS・心エコーLA/Ao・LVIDDN)
心拡大が基準未満=B1:薬物介入せず定期評価
心拡大が基準達成=B2:ピモベンダン導入を検討
うっ血性心不全を発症=C:利尿薬+ピモベンダンで治療

ステージB2:ピモベンダン導入の根拠

無症候のB2に対するピモベンダン投与は、うっ血性心不全の発症を遅らせ無症候期間を延長することが大規模臨床試験(EPIC試験)で示されています。これがB1とB2を分けて『B2では薬物介入を検討する』とする最大の根拠です。導入の可否は心拡大基準を満たすかどうかで判断し、基準を満たさないB1に一律で投与するものではありません。

エビデンスを言葉で説明できるように
『B2にピモベンダンを使う=心不全発症までの時間を延ばせる可能性がある(EPIC試験)』という根拠を、飼い主にもチーム内にも説明できることが循環器診療の質につながります。一方B1での予防投与には明確な利益が示されていない点も併せて理解します。

ステージC:うっ血性心不全の治療

うっ血性心不全(多くは肺水腫)を呈する/呈したステージCでは、うっ血の除去と心拍出の維持が治療目標です。急性肺水腫は酸素・利尿薬を中心に救急対応し、安定期は利尿薬とピモベンダンを基本に、必要に応じてRAAS阻害薬やその他の薬剤を組み合わせます。利尿薬使用中は腎機能・電解質・脱水のモニタリングが欠かせません。

  1. 急性期(肺水腫):酸素化、フロセミドなど利尿薬での速やかなうっ血除去、ストレス最小化
  2. 慢性期:利尿薬+ピモベンダンを基軸に、症状と検査で用量を調整
  3. 腎・電解質モニタリング:利尿薬とRAAS阻害薬の併用で腎前性悪化に注意
  4. 在宅モニタリング:安静時呼吸数のカウントを飼い主に指導(増加は再発の早期サイン)
安静時呼吸数(SRR)モニタリング
睡眠・安静時の呼吸数を在宅で記録してもらうと、肺うっ血の再燃を早期に検知できます。普段の基準値からの上昇は受診の目安になり、飼い主参加型のモニタリングとして有用です。

併発疾患と全身管理

高齢小型犬ではMMVDにCKD・気管虚脱・肺高血圧などが併存しやすく、利尿薬と腎機能のバランスが難しくなります。咳の原因が心臓由来(うっ血)か気道由来(気管虚脱・気管支疾患)かの鑑別も重要で、心拡大の有無と肺野所見を併せて判断します。

学習のポイント
MMVD診療は『雑音の有無』ではなく『ステージ(特にB1かB2か)』で介入が決まります。B2の心拡大基準とピモベンダンのエビデンス、Cでの利尿薬+腎モニタリング——この流れを押さえると臨床判断が安定します。

参考・一次情報源

  • ACVIM コンセンサスガイドライン(犬のMMVDの診断・治療に関するもの)
  • EPIC試験(無症候性MMVD B2に対するピモベンダンのランダム化比較試験)
  • 各製剤(ピモベンダン、フロセミド等)の添付文書
  • 日本獣医循環器学会の教育資料・セミナー

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